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苦しい?
手を差し伸べて欲しい?
それなら俺にもっと甘えなよ
もっと縋りなよ
そしたら幾らでも欲しいものをあげるから、ね?
「…っ…お兄、ちゃん……っ」
自分の太ももの上に乗り、善がりながら唇を合わせてくる。
そんなを抱きとめながら素直にからしてくれるキスに答えた。
妹のと、兄である俺。
これは、禁忌。決して犯してはならない事。
だけど、それが何?
俺はを愛しているし、も俺無しでは生きていけないんだ。
まぁ、俺がそうさせたんだけど。
「ほら、アレが欲しいのなら頑張ってみなよ」
「んぅっ……んンッ……」
一生懸命舌を突き出して、俺の舌を絡めようとするが可愛い。
中々上手く出来ないのか眉間に皺を寄せているの手を貸すように
後頭部に手を回し、強く自分から舌を吸い上げてやる。
驚いたのか、びくっと肩を跳ねさせるがとても愛しい。
「あぅ……んンッ!」
「ふふっ……よく出来たご褒美だよ」
幸村は近くにあったテーブルに手を伸ばすと、そこに置いてあった食器を手にする。
皿の中には練乳のかかったイチゴがあった。
それをフォークにさすと、の口元まで持ってってやる。
「んぅっ……」
「エライエライ」
ぱくっとイチゴを食べると美味しそうに頬張るを見て目を細める。
食べ終わった所を見計らって同じようにイチゴを差し出すと次々とは食べていく。
が欲しかったものは練乳のかかったイチゴ。
「は本当に好きだね。このイチゴ」
空になってしまった食器を元の場所に置くと、の頭を撫でる。
まだ食べ足り無いのか、もっととねだるように唇を重ねてくるに笑いがこみ上げてくる。
幼い頃からに恋心を秘めていた。
最初はいつも一緒に遊んでいたし、兄妹以上に仲が良かったと思う。
でも、そんな状況がいつまでも続くわけが無い。
年を重ねるにつれ、精市は男子と、は女子と。
同性同士つるむようになり、2人の間に少しずつ距離が出来始めた。
そして、年頃になると異性を意識し始める。
精市は前からを意識していたし、それは今も変わらないがは違った。
別の男の子を好きになり、そして恋をして、綺麗になっていく。
ますます可愛く綺麗になっていくに少なからず焦りを感じたのも確かだった。
このままだとはどんどん俺の元を離れていく。
俺の手が届かない場所へ行ってしまう。
だが、その感情を表に出す事は無かった。
2人は兄妹。血の繋がった兄妹なのだ。
誰にも相談出来ない事が精市をより苦しめた。
この気持ちをに打ち明けたらどうだろう?
でも、告げた後はどうなる?受け入れてくれなかったらどうする?
その後のの反応が怖くて、とても出来なかった。
そんな葛藤と闘っている精市に遂に恐れていた事が現実となってしまった。
『あのね、私、彼氏が出来たんだよ』
はにかみながら照れたように言うを見て精市が衝撃を受けなかった訳は無い。
その時は笑いながら「おめでとう」と言ったが、心の中ではぐちゃぐちゃだった。
を取った男への憎しみ、兄妹じゃないという立場への羨み、自分の気持ちに欠片も気付かないへの苛立ち。
から告げられた事実は、精神的に限界だった精市の自制心を脆くも崩していった。
そして、遂に精市は罪を犯してしまった
気付いた時には、手遅れだった。
傍らに眠る。の頬には沢山の涙が流れた跡が残っていた。
精市は自分自身の手を見て体が震える。
しかも、それは罪を犯してしまった自分に対する怒りではなく、が手に入った事への快感だった。
が欲しい。だけが欲しい。
そう思った精市はどんな手を使ってでもを手に入れようとした。
その手段がたとえ卑劣なものであっても。
それが、の精神を崩壊させるものであっても―――。
練乳にクスリを混ぜてイチゴにかける。
それをに食べさせれば悦んで自分に身体を開いていった。
その身体を貪りつく毎日。
堕落した日常。だけど、満足はしていた。
自分の元を離れない。離れられなくなってしまった。
もう今のにはクスリ無しでは生きていけない。
一生、俺から離れる事は無くなったんだ。
「あぅっ……んぅぅっ……」
「ふふっ…まだ欲しいのかい?困った子だね」
ぺろぺろ、と猫のように自分の頬を舐めてくるの頭を撫でる。
クスリの副作用か、精神的に退行してしまった。
赤子のように言葉を発する事が出来ず、今では「お兄ちゃん」以外の言葉を口にする事が出来ない。
「お兄、ちゃぁん……お兄ちゃぁぁんっ…」
ゆっくりと口付けて押し倒すと、首に腕を回して腰に足が絡みついてくる。
その事にほくそ笑みながら首筋に顔を埋めて囁く。
「ずっと傍に居るよ、俺の…」
言葉の意味が分かっているのか、分からないのか。
不思議そうに見返しては、こくこくと頷くにそっと口付けを落とした。
放さないよ、永遠に―――。
いい子だね
2007.7.28