――煩い

            愛しい―――

――近づくな

            大好きだ―――


素直になれない俺はいつも距離を置いてばかり


だから


失った時にその存在の大きさを改めて思い知らされた


もう2度と自分の元へとは帰ってこない



愛しい存在に



















中学3年の夏。
俺には春から付き合い始めた恋人が居た。
名前は。部活には何も所属していないごく一般の女子。
ただ一つだけ他の女子と違う事は


忍足謙也の想い人だという事。


俺は知っていた。謙也がに想いを寄せている事を。
知っていて、俺は奪ったんだ。


謙也からを―――。


それには俺に気を持っているようだったから、を手に入れるのは簡単だった。
2年生最後の終業式。
図書室で一人、本を読むに後ろから抱き着いて耳元で囁いた。


「俺のモンにならへん?」


は突然の事に驚いたようだったが、頬を赤く染めて小さく頷いた。
正直、の事を好きかと問いかけられれば答えは「NO」だった。
かといって嫌いな訳でもない。


クラスメイトの女子。


俺のへの認識はそんな程度。
ただ、謙也の想い人っていう人物だから興味を抱いただけ。
だからに執着していなかった俺は平気で他の女子とも遊んだし、を放っておいて部活に専念したりした。
我ながら最低だと思う。
だけど、そんな俺をは一度も咎めたりはしなかった。
それどころか諦めたような笑みを浮かべて自分を見送るばかり。


何だかそれが妙に癪に障った。


俺の行動が更にエスカレートした。
しまいには、と話す事すら減っていったと思う。
だから、が影で泣いている事にも気付かなかった。




そんな時、たまたま女子と体育館へ用事を済ませに行ったら体育教師の前でと謙也が一緒にいる所を見た。
元々体育教師の声がでかい所為で2人がプール清掃を任された事も聞こえてくる。
特に気にも留めず俺は女子と話をしていた。
視線を体育教師から女子に移してから、また2人を見ようと視線を上に上げると


2人が抱き合っている姿が目に入った。


その光景に息が詰まる感覚に囚われた。ちくり、と突如痛み出した胸。
2人を見たくなくて、俺は咄嗟に目を逸らす。
謙也と一瞬だけ目が合ったが気にしない。


「どうしたん?白石くん」


一緒に居た女子に腕を引っ張られてはっとする。
突然黙り込んだ俺に訝しんだのだろう。
もう1度2人の方に目を向けると、既に2人は居なくなっていた。


「白石く・・・・・きゃっ!」
「俺に関わんな」


絡められていた腕を勢いよく振り払うと2人の後を追う。
体育館からプールまでそう遠くは無い。
いつものように放っておけば良いのに何故か今回は放っておく事が出来無かった。


2人が、気になる


一緒にいる2人が。
抱き合っていた2人が。




プールに着くと扉は開いていた。
物音を立てないようにそっと入り込む。
死角が少ないプールでは一歩でも入ると2人に見つかってしまう。
扉に隠れて中を覗き込んだ。
見ると、プールの中で謙也が後ろからを抱きしめていた。



ドクン



鼓動が早くなる。




「何で・・・・何で白石なんや・・・・」
「・・・謙也・・・・・」


謙也の声との声。
抱きしめられているには抵抗が無かった。


「・・・白石やと思ってくれても、構わへんから・・・・」
「やぁっ・・・!謙、也ぁぁっ・・・・・・」


プールの中で愛し合う2人。
一歩も動く事が出来ず、ただ俺はその2人を見ていた。
見ている事しか出来なかった。
息をする事を忘れたように、ただ見ているだけ。
2人の情事が終わった後、謙也は愛しそうに気を失ったを抱きしめていた。


「・・・愛してる・・・・・」


ゆっくりと謙也がに口付けしたのを最後に俺はその場から逃げるように去っていった。






自分でも分からない程むしゃくしゃして
あんな2人を見たくないと思っている自分も居て
謙也に笑いかけるを見たくなくて


「―――っ」


そこまで考えてはっとした。
苦しい程に胸を占めるこの感情に


「くそっ」


ダンッ――!


近くにあった壁に拳をぶつける。
いつの間にか教室に戻ってきていた。


何故ここに来てしまったんだろう。


無意識に自問する。
そのとき、思考を停止させる教室の扉が開く音が耳に入ってきた。
思わず振り返るとそこにはがいた。
教室内にいた白石に驚いたのだろう。
は目を大きく見開いたまま動かなかった。


「・・・・」
「・・・っ」


名前を呼ぶとびくりと体を揺らした。


俺が、怖い・・・・・?

それとも、さっきの謙也との事があったから気まずい・・・?


白石は自嘲気味に笑うと扉の所で突っ立っているの所まで歩いていった。
腕を掴むと教室の中に引きずり込むように引っ張る。
大きく音をたてて扉を閉めた。


「痛・・っ」
「さっき謙也と何してたん?」
「――っ」


息を呑む音が聞こえた。
大きく目を見開いて自分を見てくるに苛立ちが募る。
白石は近くにあった机の上にを押し倒すと抵抗されないように足の間に自身を滑り込ませ、両手首を掴むとの顔のすぐ横に押し付ける形をとった。
スグに危機を覚えたが起き上がろうとするが、力の入りにくい体勢では無理だ。


「やっ・・・・何、放してっ!」
「放して・・・・・か、―――」


初めて、の名前を呼んだ。
その事に驚いたのか、は抵抗する事を忘れたかのように大人しくなった。
自分を見上げてくる視線に、疑惑と困惑と嬉々の色が含まれている。


謙也を選んで、まだ俺の事を想っとるんか―――?


口元を歪めると白石はを見下ろした。


「俺、見とったで?」
「・・・えっ・・・?」


丸い瞳をこれでもかという程に見開いて見上げる。
初めてこんなにも近くでを見たかもしれない。


こんなに、色が白かったか?
こんなに、瞳が綺麗だったか?
こんなに、甘い匂いがしたか?


こんなに



可愛かったのか――――。




をただの”クラスメイト”から”女”である事を認識したら、もう止まらなかった。
今まで、どうして、俺は気付かなかったんだ。
こんなにもこんなにも俺は自分でも知らないうちにの事を愛しいと思っていたなんて。
胸をまさぐるように手を制服の中に差し入れると、は今度こそ本気で拒絶してきた。
瞳を見れば分かる。


その瞳にうつしているのはもう俺ではなく、謙也だという事を―――。


「い、いやっ・・・いやぁっ!謙也・・っ・・謙也ぁぁっ!」
「・・・っ」


の口から謙也の名前を聞きたくなくて、俺は素早く左腕に巻きつけてある包帯を解くと彼女の口に押し込める。
苦しそうにもごもごと口を動かし、濡れた瞳で自分を見上げてくるの姿に自分でも驚く位発情しているのが分かった。


「謙也とヤった後なら慣らさんでもええよな」
「!!」


手早くのスカートを捲し上げ下着を下ろすと、先ほどまで謙也に愛されていた場所に指を差し入れる。
中を確認するように探るように指を動かすと小さくだがの体が跳ねた。
指を抜いてみれば謙也が出したものか、はたまた彼女自身のものなのか、白濁した液体が机の上を汚す。


「中に、出されたん?」
「っ」


指で粘つく液体を弄りながら問うと、は何も返事はしなかった。
ただ頬を一瞬にして赤く染めただけで。
逆にそれが答えだと思った。
器用に片手で自分のモノを取り出すとぴたりと宛がう。


「謙也が出したんなら俺も構わへんよな?」
「!・・・やっ・・・あうううっ」


逃げようと上にあがる腰を押さえつけて全てを一気に押し込めた。
口の中にある包帯が邪魔してくぐもった声しか出せないをお構いなしに無我夢中で腰を進める。
全てが入ったかと思えばすぐに退いてまた奥へと突き進む。
相手をいたわらない自分の欲だけを満たそうとするような行為。


―――最低だ。


目にたくさんの涙を浮かべてただひたすらに耐えるをどこか遠いところで見ている気分だった。
頭の中は妙に冴えていて冷静に今の状況を見下ろしている。
。。。
心の中での名前を呼び続ける。
その言葉は決して口からは発されなかった。


「うっ・・うううっ・・・!」
「はぁ・・っ・・・くっ・・・!」


最奥をめがけて腰を打ち付けると、そのままの中で全てを放つ。


――もう・・・これで・・・・・


呆然と虚ろな瞳で天井を見上げるを見つめながらゆっくりと体を退いた。







後始末を終え、何事も無かったように静寂を取り戻した教室。
こちらを向こうともしないに白石は目を伏せた。



「謙・・也ぁっ・・・・・」

自分自身を掻き抱きながら嗚咽する声を漏らす彼女を見て




2度と元の関係に戻れない事を悟った―――























擦れた包帯



失ってから気付く愛しいもの

俺は愚かだったのかもしれない



2009.4.04