2人だけの秘め事

そう、これは誰にも知られちゃいけない事なんだ


俺にとっても


お前にとっても


その方が絶対にシアワセだから


だから、どうすれば良いか分かるよな?



















「すまんな、」
「良いですよ、このくらい」


放課後。
誰も居ない理科室で2人の生徒が掃除している。
3年の仁王と2年のだ。
どうして、学年の違う2人が一緒に掃除しているのかというと、約30分程遡る。




「放課後、理科室の掃除してくれよ」


運悪く担任に捕まった仁王。
仁王の担任は理科の教科担任で、授業中居眠りをしてしまった仁王に罰として掃除を与えたのだ。
マネージャーのにその事を述べると


「じゃあ、私も手伝います」


と、笑顔でそう返された。
返ってくると思わなかった返事に驚く仁王を他所に、は仁王よりも先に理科室へと行ってしまった。
そして慌てて仁王もその後を追い、今に至るという事だ。


「後はここだけですか?」
「ああ、そうじゃよ」


理科室に続く理科準備室。
その隣にあった棚を雑巾で拭きながらは仁王に話しかけた。
仁王はそんなを見ながらも入り口の扉の方を見る。
誰かが来る気配は無い。


「、最近赤也と上手くいっとるのか?」
「……えぇぇぇっ!!」


赤也という単語に異常なまでに反応した。
その様子を見て仁王はくすくすと笑った。
笑われた事が恥ずかしくて僅かに頬を染めながらは勢いよく振り返った。


「な、なんで……そ、そんな…っ!」
「どもりすぎじゃ、」
「仁王先輩がへ、変な事言う、から……」


ぎゅっと雑巾を握り締めて俯いたに目を細める。
最近赤也と付き合い始めた。
この2人のカップルはくっつく前から周りに冷やかされたりされていて結構話題の種だった。
勿論、2人が恋人となる事に異議を唱える者など居なく
テニス部でも微笑ましいカップルとして温かく見守られている存在だ。
だから、こうしてをからかったりするのも今に始まった事ではないが……


忌々しい


頬を染めて赤也を想うが。


テニス部でただ一人。
仁王雅治だけはこのカップルを微笑ましく思っていなかった。
実は前からの事を想っていた仁王。
それなのに、自分では無く他の男を選んだに対し恨みのような感情を密かに抱いていた。
だが、それを表に出すような男ではない。


今日もまた平然との前で偽りの仮面を被る。


「変な事じゃないぜよ。後輩を思う先輩としては雲行きが気になる所だしなぁ」
「仁王先輩が心配するような事は何もありませんよっ」


照れ隠しで言うの台詞も鋭利な刃物となり仁王の心をズサズサと切り刻んでいく。
それでも仁王は仮面を外さない。
は仁王から棚へと視線を移す。


「仁王先輩も彼女作らないんですか?結構話題になってますよ」
「ふーん。興味無いのう」
「勿体無いですねぇ……仁王先輩モテモテなのに。誰でも彼女になりたいって思いますよ!」
「………」


の言葉に仁王は無言になる。
突然無言になった仁王に怪訝そうには後ろを振り返った。
瞬間、体が固まる。


「誰でも、か……」


目の前にあった仁王の顔に驚いたから。
いつのまにか棚の横に手が置かれていて逃げる術が無くなっていた。
驚きつつも近い仁王の顔に焦りながらは言葉を紡ぐ。


「あ、あの……仁王先輩?」
「誰でも彼女になりたいと言ったよな?」
「え、それは……」


鋭い視線から目が逸らせない。
じっと自分を見下ろしてくる仁王を見ながらは緊張で汗ばんできた。
ごくり、と唾を飲み込んだところで


「お前さんが彼女になってくれるんか?」


そっと囁かれ、気付けば唇を奪われていた。
あまりにも早い行動についていけず目を見開いたまま抵抗出来ずに居たが
口を割って入ってきた舌に体を震わせると慌てて腕を突っ張り仁王と距離を置こうとする。


「……っ……やぁっ…」
「逃げるんじゃなか」


がっちりと片手で後頭部を固定されてしまい、逃げる事が出来なくなってしまった。
せめてもの抵抗で舌を奥へと引っ込ませるがいとも簡単に絡め取られてしまう。
頭の奥が蕩けるようなキスに段々の抵抗も弱まっていく。
抵抗が無くなってきた事を良い事にもう1度深く口付けをしようと離した時だった。


タタタタタタッ………


廊下を走る音。
それも確実にこちらへと向かってくる感じだった。
仁王はその音を聞くと素早くの腕を引いて隣の理科準備室へと入る。
理科準備室は薬品が沢山置かれており、直射日光を防ぐ為にカーテンがされていて暗い。
当然理科室からは中を伺う事は出来なかった。
2人が理科準備室に入って少し経ってから理科室の扉が開けられる音がした。




「!」




入ってきた人物はどうやら赤也のようだった。
自分の名を呼ぶ恋人にはっとしたは仁王から逃れようと体を捩る。
だが力強く腕が掴まれている為、赤也の元へ行く事は出来なかった。


「あれ、おかしいな〜ここに居るって言ってたのに……」


独り言を漏らしながら赤也は理科室の隅々を見て回る。
床を歩く音だけが教室内に響いていた。


「あ……んンっ!?」


ここから出してもらう為に赤也の名を呼ぼうと口を開いた瞬間、仁王に口を閉ざされた。
そして先程のように舌が絡む深いキスをされる。
の意識が逸れた時、急いで仁王は自分のネクタイを解くとの両手首に縛りつけた。


「や…っ……何っ!?」
「声を出すんじゃなか。赤也に気付かれても良いんか?」
「……っ」


音を出さないようにを壁に押し付けると仁王は自由の利かないの腕を自分の首に回させた。
接近した仁王の顔を見ないように顔を俯かせるだったが、服の上から胸を掴まれて思わず顔を上げてしまった。
仁王と目が合う。


「や…っ」
「静かにするんじゃよ、気付かれるぜよ?」
「ここで待ってたら来るかな……」
「……っ」


ドア越しに聞こえてきた赤也の声には体を竦ませる。
明らかに顔色の悪いだが、仁王は気にしない。
いつ赤也に気付かれるか。
その事がの頭に占めている。
そんな緊張の中、仁王は楽しむように攻めの手を緩めない。


「ふっ……はぁっ……!」
「ん?感じとるんか?」
「っ!!……違…っ」
「嘘はいかんぜよ」


ぐっと胸を持ち上げるようにして揉むとは更に声を上げた。
ブラウスを力任せに引っ張り、ボタンが弾け飛ぶ。
飛んだボタンが棚に当たり小さく音をたてた。
その音が聞こえたのか、扉越しから赤也の声が聞こえてくる。


「誰か、いるのか?」
「……その声は赤也か?」
「え?仁王、先輩?」


黙っていたら入ってきそうな雰囲気に、仁王は口を開く。
意外な人物が居た事に驚いたのか赤也の声は少し上擦っていた。
仁王はブラを押し上げるとゆっくりと口を近づけ、肌の上に舌を滑らせていく。


「んぅ…っ!」
「あの、仁王先輩。ここにきてませんでしたか?」
「ああ、か……」


胸の頂点を甘噛みしながら目線を上に上げると、自分を見下ろすと目が合った。
仁王が自分を愛撫する光景を直視した事に顔を真っ赤に染めると視線を逸らす。
その事にほくそ笑むと口を胸から離し、顔を逸らしたの耳元にそっと囁く。


「ここに赤也を呼んでみるか?」
「!? やっ……やめて…っ」
「何でじゃ?彼氏に助けて欲しいんじゃなか?」


耳をねっとりと舐めて、小さく息を吹きかける。
びくびくと震えるを見て目を細める。
意識が完全に耳にいっている事を察した仁王は気付かれないように片手を足の付け根へと持って行く。


「ひゃぁ…っ!」
「仁王先輩?」
「おお、すまんすまん。じゃったら先ほど友人に呼ばれて出て行ったぜよ」


下着の上からなぞるように指を滑らしてくつくつと笑う。
目の前には声を出すまいと唇を噛んで目を瞑り耐えるの姿。


最高に良い眺めじゃ・・・


「そーっすか・・・じゃあ探すんで、先失礼しまーっす」
「に宜しくのぅ」
「ういーっす」


赤也は何故仁王が理科準備室にいるのか深く考えず、ピシャリと音をたてて理科室を出て行った。
赤也がいなくなった事を確認すると、仁王は視線をに戻す。
彼氏である赤也に見つからなかった事に安堵してしているが、これからの事を考えて顔を強張らせているの表情。
その表情に加虐心が擽らされたのか、仁王は口の端を吊り上げる。


「ほっとしとぅ?」
「っ!」


ぺろり、と自分の下唇を舐めながら見上げてくる仁王にはカッと頬を赤く染める。
その様子を目を細めて見つめると、そっと唇を耳元に寄せて囁いた。




「                」





その時の、絶望に満ちたの顔を忘れる事はないだろう。


















声を殺す



明日も同じ時間に、この場所で・・・・さもなければ・・・・・








2009.2.21