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カリカリカリ・・・
カリカリカリ・・・・・
教室に響く鉛筆が紙の上を滑る音。
放課後、誰もいなくなった教室で静かに机と向き合う男女。
机を向かい合わせにした状態で、ただ淡々と手を動かし続ける。
「・・・・」
「・・・・」
カチカチと動き続ける秒針がやけに大きく聞こえた。
男はちらりと顔をあげて、目の前にいる女を盗み見る。
女は相変わらず自分の手元にあるプリントに文字を書き続けていた。
「・・・・っ」
だんだんその空気に耐え切れなくなった男が鉛筆を放り投げるとガタンと音をたてて席を立つ。
その音にようやく、女は顔をあげて目の前の男を見た。
「・・・・なに」
「っだあああああ!もう耐えられへん!!小春うううううっ!!!」
男、一氏ユウジは思いっきり自分の髪の毛を掻き毟ると泣き叫ぶようにある人物の名前を呼び続けた。
その様子を呆れた目で見続けていた女、は相手に聞こえるようにわざと大きい溜息をつく。
「・・・アンタ、邪魔。早う部活行ってこいや」
「・・!俺かて早う部活行きたいわ!!せやけど、せやけどなぁ・・・!!」
バンッ
今まで黙々ととりかかっていた机の上にあるプリントを思い切り叩く。
それは、今日の4限目にだされた数学のプリント。
はちらりと叩かれて少し皺のよったユウジのプリントを見ると、またユウジに視線を戻す。
「もうええやん。書かんくても成績下がるだけやし」
「それがあかんっちゅーねん!!」
「・・・・はああぁっ」
「わざとらしく大きく溜息つくな!」
そもそもどうしてこの二人が教室でこのような事になっているかというと、事は簡単だ。
今日までに提出しなければいけなかった数学の宿題を二人が忘れてきてしまったから。
いわゆる補習というやつである。
「これやから宿題のよぉある数学は嫌いなんや!」
「・・・単に数学が嫌いなだけやん」
「うっさい!」
横槍をいれるにユウジは噛み付く。
二人の関係はいつもそうだった。
なぜこんなにも二人の仲は和やかなムードにならないのか。
それはきっと性格などが根本的に合わないからだろう。
といってもの態度にユウジが勝手に文句をつけているようにしか見えない。
しかし、はそんなユウジを別段気にしてる様子もなくめんどくさいからそのままにしているだけという感じだ。
それがまたユウジの癪に触りに強くあたる理由の一つでもある。
「・・・でーきた」
「なんやて!?」
鉛筆を机の上におき、は誇らしげにユウジを見る。
上からびっちり埋められているのプリントとは逆にユウジのプリントはほとんど真っ白だった。
自分より先に終わった事が悔しくて、ユウジは唸る。
「のくせにのくせに・・・・」
「・・・なんやの。その呻き声・・・・」
ぼそぼそと自分の名前を呼ぶユウジには顔をしかめる。
「小春ううううう」
「・・・」
机の上になだれ込むようにして顔をくっつける。そんなユウジをは呆れた目でみた。
―――本当にどうしようもないやつだ。
帰る支度を終えたは、小春小春と呻いてるユウジに自分のプリントをたたきつけた。
目の前に現れたプリントに驚いてユウジは思わず体を反らせる。
「・・・見てもええから」
「・・・・・は?」
「そんなに小春ちゃんとこ行きたかったらさっさと写して書いて部活行ってきや」
おもわぬ助力にユウジは目をまんまるに見開いてを見つめた。
はニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべる。
「この貸しはでかいで?」
「・・・っ!」
パシンッ
勢いよくの手からそのプリントを奪い取るとユウジはそっぽを向く。
そんなユウジには笑った。素直じゃないクラスメイトを見つめて。
「ほな、頑張るんやで!」
「・・・・ぁ・・」
ガタンッと音をたてて席を立ち、はユウジに背を向けて教室を出ようとする。
がでていく気配を感じ慌ててユウジはを見た。
受け取ったプリントをくしゃりと強く握る。
「・・・っ、!」
「?」
教室をでる寸前に振り返る。
ユウジはこれでもかっていうくらい大きな声で叫んだ。
「き、金曜日の放課後体育館来いや!」
はきょとんとユウジを見返すが、すぐに理解したのか笑いながら頷く。
そして軽く手をふると今度こそ教室を出て行った。
ユウジ以外誰もいなくなった教室。
が出て行った扉をじっと見つめ、ユウジはプリントを机の上に置いた。
「・・・・くそっ」
頭に巻いているバンダナをぐっと目元まで下げる。
先ほどから煩いくらいに主張する自分の心臓に右手を押し付けた。
バンダナを握ったままの左手に力がこもる。
「冗談やないっちゅーの・・・」
赤くなっているだろう己の顔を誰にも見せたくなくて、ユウジは今度こそ机に顔を押し付けた。
多分自分は、彼女に心底惚れている
明日、なんて顔でアイツに会えばいいんや・・・
2009.3.1