クリスマスダンスパーティー。

男子にエスコートされて行かなければならないという今年最後にして最大のイベント。

今朝、ちゃんからその話を聞いた後にちゃんと一緒に朝食を食べるために大広間へと来てみれば、周りはもうその話で持ちきりだった。

いつもよりざわざわと騒がしい大広間に入ると定席に座り、カボチャジュースを並々コップに注ぐ。


「おはよう、」

「!」


目の前の席に座った友人――リーマス・ルーピンを視界にいれるとにこりと微笑む。

彼もまた同様に自分のコップにカボチャジュースを並々と注いだ。

その光景を見つめながらはふと疑問に思った事を尋ねる。


「ねぇ、リーマス」

「なんだい?」

「リーマスはクリスマスダンスパーティーどうするの?」

「え・・・?」


意外な質問だったのかリーマスは少し目を丸くさせた。

リーマスの隣に座っていたシリウスがニヤニヤとした表情を浮かべる。


「そういえばもうそんな時期だな〜。なんだよ、もしかして相手を探してるのか?」

「むっ!そうじゃないもん。ただ初めてだから分からなくて聞いてみただけだしっ」


シリウスの言葉にツンと顔を横に背けると、フォークでさしていたサラダを口に含める。

と、そこに一羽のふくろうが大広間に飛んできた。


「・・あれ、のペットじゃない?」


の声に顔をあげると小さい真っ白なふくろうがこちらに飛んでくるのが見えた。

口には何か手紙を銜えており、の元まで来るとそれを落とし、また窓から外に出て行く。


「手紙?」

「珍しいわね」


丁寧に封のされた手紙をまじまじと見つめる。

達はトリップでこの世界に来てしまったので手紙を送ってくるような知人はおろか家族さえいない。

初めて受け取った手紙に僅かに困惑の色を浮かべる。


「差出人の名前は無いわね」

「うん・・」

「開けてみたら?」


の言葉に頷くと、ゆっくりと丁寧に封のされている封筒を開いた。

いそいそと手紙を取り出すと流し目でざっと読み始める。


「なんて書いてあるの?」

「・・・!!」


手紙を読むやすぐに封筒にしまい込み、ガサガサとローブのポケットへと突っ込んだ。

の頬は僅かに赤みがさしている。


「・・・パーティーへのお誘いが書いてあった」

「あらら。誰から?」

「・・・詳しくは知らないけど、ハッフルパフの子だったよ」


近くにあるかぼちゃパイを手にとると、気恥ずかしさを隠すために必死にもぐもぐと食べ始める。


「ひゅ〜!やるじゃん。これからまだまだ誘いが来そうだな?」

「もう!からかうのやめてよっ」


シリウスの言葉にむっとして言い返すとぐいぐいジュースを流し込む。

その様子をじっと見ていたリーマスは、手紙をいれられたのローブのポケットをちらりと見てから尋ねた。


「受けるの?その手紙」

「ううんっ。だって知らない人だもん・・・ちゃんと断っておくよ」

「じゃあ見知った人間ならオーケーするのかよ?」


一瞬だけスリザリンの方を見て、は小さく頷いた。


「・・だ、そうだ。良かったな」


リーマスに聞こえる位の小声でシリウスが呟いて肩を叩く。

そしてシリウスはリーマスの肩に手を置いたまま、ニヤニヤとまた良くない事を考えているような顔でを見た。


「じゃあ俺でも良いわけ?をエスコートしてやろうか?」

「結構です。シリウスは嫌」

「なんだよそれっ!」


即答された事が気に食わなかったのか少しむっとしながら食いかかる。

だがそれもご飯を食べ終わり立ち上がったにスルーされてしまう。


「ごちそうさまっ!ちゃん、先行ってるね」

「ええ。あとでね」


ぱたぱたと急いで走っていくの後姿を眺めながらシリウスは面白くなさそうに舌打ちをした。が、すぐに小さく息を吐く。


「のやつ可愛げが無いよなー。まぁ、確かに外見は文句無いけど・・・・」

「シリウスがいっつもからかうように言うからだろ。それに君は所じゃないと思うけどね」


黙々とご飯を食べ続けているの事をちらりと一瞥したあと、を虐めたお返しとばかりに満面の笑みを浮かべる。


「彼女も結構大変だと思うけどね。学校内じゃ有名だし?噂だけでも二桁を超える人が彼女に声をかけようとしてるみたいだけど」

「・・・ちっ!リーマスだってのんびりしてると盗られんぞ」


図星を当てられて痛いのかシリウスは小声で一言呟くと、そっぽを向いて後は大人しくご飯を食べ始めるのだった。













部屋に戻り次の授業の準備をし終えると、は急いで談話室を出て教室へと向かった。


「えっと次は確か変身術だったはず・・・」


トントンッとリズム良く階段を降りていく。

気まぐれな階段とこの広い敷地内でが迷子になった経験は数え切れないくらいにあった。

編入した日に至ってはこの階段から踏み外して落ちた事もあった。

慎重に慎重に階段を降りながら進んでいると遠くで見慣れた姿を見かける。

姿勢正しく綺麗に歩く姿はいつ見ても変わらない。

は足早に階段を降りると彼の元へと走り出した。


「レギュラス!」


自分の名を呼ぶ声にぴたりと止まると彼はゆっくりと振り返った。

それだけの事なのにとても上品に見えるのは彼の生い立ちの所為であろう。

彼――レギュラス・ブラックは自分の名を呼んだ少女、を見てそれはとても深い深い溜息を吐いた。


「・・・・なんだ」

「おはよ、レギュラス」

「ああ」


短く返事をするとそれっきりで、レギュラスは再び前を歩いていく。

先輩にも関わらず敬語も使わず見下したような態度をとるのはレギュラスにとってだけだった。

それは別に特別だという感情からとかでは無く。

がいくら2個年上で兄と同年齢といえど、今年編入してきたので学力的にも一年生と変わらず、尚且つマグル生まれという事になっているので、 レギュラスにとって敬語で話すような存在ではなかった。

更に、日本人故の童顔さとの持ち前の性格等も備わり大人びたレギュラスよりも年下に見えるのもまた要因の一つだと思われる。


「ま、待ってよ、レギュラス!」


先に行ってしまう彼を慌てて追いかける。

置いてかれないように彼の前に回りこむと道を塞いだ。

足を止めたレギュラスは不機嫌そうにを見下ろす。


「き、聞きたい事があるんだけどっ」

「なんだ?早くしてくれよ」

「その・・・クリスマスダンスパーティーの事なんだけど!」


意を決してレギュラスに訊いただったが、レギュラスはというと何の事か分からないと言った様に柳眉を顰めた。


「何だそれは」

「え・・?何って24日にやるダンスパーティーの事だよ・・・?」

「そんな事聞いたこと無いけど」

「ええ・・っ!?」


最初は冗談で言っているのかと思ったが、レギュラスの顔を見る限り本当に分かっていなさそうだった。

あれ?と思っているのも束の間で、声を発しようとした所で後ろから誰かに肩を叩かれる。


「ちゃん」

「え?」


首だけ振り返ってみてみれば、知らないレイブンクローの男子生徒が立っていた。

顔は見たことあるかもしれない・・・ので恐らく同じ五年生であろう。


「ちょっと良いかな。ダンスパーティーの事なんだけど」

「え!っと・・その・・・今は・・・」

「誰ですか」


もごもごと口籠もっているは気にせず、レギュラスは突然現れた男子生徒に一応の敬語で尋ねる。

しかし、その瞳はとても冷たく僅かに怒っているような雰囲気も纏っていた。

男子生徒はそこでやっとレギュラスが居る事に気づいたのか驚いたような表情を浮かべるが、すぐに顔を改める。


「誰かと思えばブラックの弟か。僕は彼女と同じ五年生の者だ。まぁ、寮は違うけど」

「・・・何の用ですか」

「僕が用があるのは君じゃない。彼女だ」


レギュラスをちらりと見るとすぐにへと視線を移した。

自分を見る時とは違い、明らかな好意を含んだ熱っぽい視線にレギュラスはピクリと小さく眉を動かす。


「ちゃん、ダンスパーティーの事は知ってるよね。是非一緒にパーティーに行って欲しい。僕にエスコート役をさせてくれないか?」

「へ!?でも私・・・っ」


口籠もりながらちらりとレギュラスを窺うように見る。

しかしレギュラスはの事は見ていなく、ただ突然現れた男子生徒を冷たい目でじっと見つめている。

男子生徒はそんなとレギュラスの双方を見比べて、何かが分かったのか笑いながら答えた。


「ひょっとしてちゃん知らないのかい?」

「え?」

「ダンスパーティーは4年生からの催しだから3年生はその存在すら知らないんだ」

「そ、そんな・・!」


さっきのレギュラスの反応は正しいものだった。

クリスマスダンスパーティーの事は三年生以下には一切知らされていないという事。

つまり


(レギュラスと一緒には行けないって事・・・・?)


驚いて息を呑んだに人の良さそうな笑顔を浮かべると一通の手紙を渡す。


「これ、読んで欲しい。それから返事をくれるかな?」

「あの・・でも」

「頼むよ。ずっとちゃんの事を見てたんだ」


真剣な眼差しで見つめられて、困惑して俯いた。

受け取った手紙につい力をいれて握り締めてしまう。


「でも私・・・・・あっ、レギュラス・・!」


誘いを断ろうと顔をあげたとき、レギュラスが無言で横を通って通り過ぎていくのが見えた。

慌てて声をかけるが彼は一度もこちらを振り向かないままそのまま行ってしまう。

その後姿を呆然と見つめていると、もう一度肩を叩かれてはっとする。


「それじゃ、返事楽しみにしてるね」

「あ・・・!」


彼もそれだけを言い残すとさっさと居なくなってしまった。

残されたはレギュラスが行ってしまった方を見て、手元の手紙に視線を移す。


「・・・せっかくレギュラスと一緒にいれた時間だったのにな・・・」


寮も学年も違うレギュラスとは会える頻度の方が少ない。

二人でいた所を介入されたことに複雑な気持ちになる。

しかもダンスパーティーの誘いときたものだから余計に。

貰った手紙を今朝ふくろうから届いた手紙がいれてあるポケットに乱暴につっこむと、は朝の授業を受けるために教室へと急いだ。












なんとか授業には間に合い肩で呼吸をしながらいつもの席へと座る。

まだ先生は来ていない様だ。

隣に座っているリーマスはそんなを不思議そうに見た。


「どうしたんだい?てっきり先に行ったものだと思っていたから僕達より遅くて驚いたよ」

「あ、リーマス・・・うん、ちょっと・・・・」

「なんだぁ?ダンスパーティーの誘いでももらってきたのかよ」


後ろから冷やかすような声がして振り返るとシリウスが楽しげにこちらを見下ろしていた。

その顔にキッと睨みつけるとふんっと顔を逸らして前を向く。

そして後ろからすぐにシリウスの「いててっ」という声が聞こえてきたので、隣に座っていたが何かしたのは明白だった。


「・・・・・・」

「なにかあった・・・?」


元気の無いに優しく問いかける。

リーマスの言葉に少し間を置いてから小さく頷いた。


「ねぇ、リーマス」

「うん?」

「ダンスパーティーって・・・4年生からしか参加出来ないって本当・・・?」


その言葉を聞いてリーマスは何故に元気が無いのかを大体理解する。

少し考えてから、いつもよりはっきりとした口調で言った。


「そうだね。ダンスパーティーは4年生からの参加になっている。僕達は4年生になってから初めてその存在を知ったんだ」

「・・!」

「でも一応例外はあるよ。男子からのエスコートを受けた3年生の女生徒は参加できる」

「女生徒・・・・」

「そう。つまり逆の場合は適用されないって事だね」


だってエスコートは男がするものだろう?というリーマスの言葉に黙って俯く。

そんなの右手を優しく包み込むように掴んだ。


「!」

「・・・・レギュラスと行きたかったんだろう?」

「・・・うん」


頬を僅かに赤く染めて照れたように小さく頷くに、握っていた手に少し力が入る。

が浮かべるその表情はまさに恋する女の子。

リーマスはその表情を複雑そうな瞳で見やると、誤魔化すようにいつもの優しい笑みを浮かべた。


「ねぇ、。僕とダンスパーティー行かないかい?」

「え・・・リーマスと?」


思ってもみなかった申し出には目を丸くしてリーマスを見た。


「うん。僕はと行きたいんだけど・・・・僕じゃ嫌かな?」

「そ、そんな・・・嫌じゃないよ!嫌じゃないけど・・・」


リーマスが嫌いだから行きたくない訳じゃない。

その事を必死に否定するがやはり心の中はレギュラスの事が引っかかっていて『YES』とは頷けない。

そんなもお見通しなのか、リーマスはクスクスと笑いながら言葉を紡ぐ。


「分かってるよ。には一緒に行きたい相手がいるって事も」

「リーマス・・・」

「でもパーティーは楽しいよ。美味しいご馳走が山ほど出るし、の大好きな甘いものだって沢山ね」

「リーマスずるい・・・・」


甘いものの話を出されて少しぐらりと揺らいだ自分を情けなく思う。

気まずそうに視線を僅かに泳がせるにもう一度声をかける。


「レギュラスは来年になったら4年生だ。そしたらきっと一緒に行けるよ」

「・・・・」

「だから今年は僕と一緒に行って欲しいな。一緒にパーティーにある甘いデザートを全部食べつくそうよ」

「・・・ぷっ」


ダンスよりもデザート。

まさにリーマスらしくもあり、自分にもぴったりなその申し出についつい笑ってしまう。

今日一日ずっと見れなかったの笑顔をやっと見ることが出来たリーマスは僅かに目を細めた。


「あははっ、やっぱりデザートが目的なのねっ」

「・・・そんなに笑うなんて失礼だな。だってそうだろ?」

「ふふっ、実はね。全部食べるつもりは無かったけど」

「なら全部食べると思うけどね?」


とリーマスは互いに見合うと笑いあった。

つかまれている右手の上に重なるリーマスの手の上に自分の左手を重ねては言う。


「・・・・じゃあ、私と一緒にデザート食べてください」


らしい言葉にリーマスは微笑んで頷いた。


「僕で良ければ、もちろん喜んで」

「ありがとね、リーマス」


感謝の気持ちを込めて言った言葉だったが、リーマスは複雑な表情で笑い返した。

その事が気になり尋ねようとした時に先生が教室に入ってきたらしく、ざわついていた教室も静かになる。

リーマスも先生の方へと顔を向けてしまった為、それ以上聞く事が出来ずダンスパーティーの話はそれきりとなってしまった。

はパーティーとレギュラスの事を考えながら教科書を見つめた。




そんなを横目で確認すると、リーマスは口元を歪めた。


(君の気持ちを知ってて利用する僕にお礼なんていらないんだよ・・・・)


に気づかれないように自嘲的な笑いを浮かべると、ゆっくりと教科書の表紙を開いた。






























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2010.11.25
長いので分けます。