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「さーて!今日も上手にできました〜!」
嬉しそうにオーブンから焼きたてのアップルパイを取り出すとは満足げに頷いた。
彼女の手元にある美味しそうな匂いを放つそれに厨房にいた屋敷しもべ妖精たちは興味津々といったように覗き込んでくる。
「ああ、だめよ!食べちゃ・・これは今日のお茶会のスイーツなんだから!」
じっと見つめてくる屋敷しもべ妖精たちにニコリと笑みを返すと、はそそくさとバスケットにいれてお茶会の為にアップルパイと紅茶の葉などを詰め込んでいく。
「さてさて、今日も楽しいお茶会の始まりね!」
綺麗に焼け目のついたアップルパイをもう一度見つめると、楽しそうに笑いながらバスケットの蓋を閉じた。
「大変!急がないとちゃんを待たせちゃうわ!いつもありがとうね、しもべ妖精さんたち!」
笑顔でお礼を言うとは一目散に厨房を後にした。
焼きたてのアップルパイを冷やしてしまわないようにと、なるべく早足で寮へと向かう。
の言うお茶会とは、同じく日本人で一緒にトリップしてきたとのティータイムの事を指していた。
もう一人、トリップしてきた日本人の友達――も居るのだが、生憎は大の紅茶嫌いで有名であり、せっかくのお茶会でもが参加する事はごく稀で、いつも二人でする事になっている。
グリフィンドール寮に入るための合言葉を唱え、談話室への道を駆けていく。
―――と、そこに見知った人物が談話室で読書をしていた。
「あれ、?そんなに急いでどうしたんだい」
甘党仲間という事で結束している友人。リーマス・ルーピンが声をかけてきた。
リーマスの言葉には走っていた足をとめると、くるりと振り返って笑顔でこたえる。
「ふふっ、これからお茶会をするんだよ!」
手に持っているバスケットを掲げて主張をする。
「今さっき焼けたアップルパイを持ってきたの」
「わぁ〜!すごい良い匂いっ」
香ばしいパイの匂いに釣られてきたのか、近くにいたピーターがの元までやってきて鼻をくんくんと動かしている。
「あら、ピーター。ピーターもリーマスと読書?」
「ううん、違うよ。僕はそこでお菓子を食べていたんだ」
リーマスの横には散乱したお菓子の紙くずの山が散らばっていた。
それを見てなるほど、と首をうんうんと頷かせる。
「・・・それは、が焼いたのかい?」
「そうだよ!私お菓子作りは得意なのっ」
自慢げにえっへんと腰に手をあてて言うにリーマスはくすりと笑みを零す。
「ははっ、そうなんだ。羨ましいなぁ。僕ものお菓子食べたいな」
甘いものには目がないからね。そう言って笑うリーマスには一瞬考える素振りをしたあと、なにか良い事が浮かんだのかすぐに笑顔になった。
「それじゃあリーマスも一緒にお茶会に参加する?私の作ったお菓子で良いなら、だけど」
「とんでもない!のお菓子が食べれるなんてとても嬉しいよ。でも、良いのかい?」
「うん、大丈夫。良かったらピーターもどう?」
「僕も食べたいっ!」
待ってましたと言わんばかりの威勢で食いついてきたピーターに二人は笑いあう。
「決まりね!じゃあ今日は4人でお茶会かしら」
「4人?そういえばお茶会というくらいだから誰か他にもいるんだよね?一体それは誰なんだい」
「私よ」
リーマスの問いに答えたのはではなく、たった今女子寮の階段から降りてきただった。
どこから話を聞いていたのかは分からないがの反応を見る限りは、大体の流れは掴んでいるのだろう。
「あ、ちゃん!今向かうところだったの!今日はリーマスとピーターもお誘いしたんだけど良かったかな?」
「ええ、私は構わないわ。たまには客人を招くのも良い事だと思うし」
上品な笑みを湛えながらは言った。
その言葉にほっと安心した表情を浮かべて、はバスケットを持ち直す。
「良かった!ちゃんがそう言ってくれてっ。うーん・・・それじゃあどうしようかな。リーマスとピーターは女子寮に来る事が出来ないし・・・・」
いつもお茶会は自室でやっているの!という言葉にリーマスとピーターは頷いた。
学校の仕組みで、男子は女子寮にはに行けない事なっている。
「なるほど・・・・それじゃあ達の部屋でっていう訳にはいかないね。それじゃあ別の場所になるのかな?」
「そうね・・・別の場所・・・・と言ったらとても良い所があるわよ。ついてきて」
「え!?ちょっ・・・ちゃん!?」
スタスタと先に談話室を出て行ってしまったの後姿を見やった後、残された3人は互いの顔を見合わせて慌てて談話室を出て行った。
の後を追って着いた場所は学校の中庭だった。
自由時間もあって、所々に生徒が点々といる。
その中をまっすぐと歩いていき、人が少ない所に着くと歩いていた足を止めた。
「待ってよー!ちゃん・・・っ!」
後ろから達が遅れて到着する。
辺りを見回してリーマスはそよぐ風に目を細めた。
「凄く良い所だね、風がとても気持ち良い」
「ええ。ここは私のお気に入りの読書ポイントなの」
ベンチが数個置かれているが誰かが座っていたりはしていない。
風通しがよく、ぽかぽかと暖かな日差しも入ってくる絶好のポジションだった。
周りには控えめに花が小さく咲いている。
「中庭でもこんな所があったんだね」
「偶然散歩をしていたら見つけたの」
は軽く杖を振り、お茶会の為のテーブルと椅子を出現させた。
「さぁ、どうぞ」
「ありがとう」
リーマスとピーターが席に着いたのを確認して、は持っていたバスケットをテーブルの上へと置いた。
その間にもはティーカップや食器などお茶会に必要なものを魔法でどんどん出していく。
「はい!特製アップルパイだよ!」
「うわぁ・・・!美味しそう!」
目の前に出てきたアップルパイにピーターは目が釘付けとなり、ごくりと喉を鳴らす。
「はい、ちゃん。言っていた紅茶の葉だよ」
「ありがと、」
から茶葉を受け取るとはお茶の準備を始めた。
その光景をじっと見ていたリーマスが手馴れたとの対応にふと息を漏らす。
「いつもこうやって二人でお茶会をしているのかい?」
「そうだよ!私とちゃんは日本人だけど、紅茶が大好きだからねっ」
「なるほど、だからそんなにも手馴れているんだね」
納得したようにうんうんと頷くと、目の前にコトリとカップを置かれる。
「どうぞ、リーマス。冷めないうちにね」
「ありがとう」
からティーカップを受け取ると軽く匂いを嗅いでからゆっくりと口に含んだ。
とても良い風味で、美味しいお茶にため息すら零れる。
「はい、リーマス。アップルパイもどうぞ」
「ありがとう」
「ピーターもね。あ、ミルクはこっちよ」
綺麗に切り分けられたアップルパイの皿を受け取り、改めてまじまじとの作ったアップルパイを見つめる。
先端をフォークで切り、食べようとした所で視線を感じてそちらを見てみると、緊張した面持ちで食べる動向を見守っていると目が合った。
「・・・あんまり、見られると食べづらいんだけど?」
の心理が分かっているからこそ、笑みを含みながら尋ねる。
はっとしたようには目を少し見開くと恥ずかしそうに視線をそらした。
「・・・リーマスはいじわるねっ」
「ははっ、が面白いからだよ」
「・・・もう!」
「ごめんごめん。それじゃあ頂きます」
軽くをからかった後、間をおくことなくぱくりとアップルパイを口に含んだ。
食べた瞬間に広がる独特のアップルパイの味と表面のパイ生地がさくりと音をたて、中がしっとりとしたやわらかさを持っており、リーマスは感嘆の息を吐いた。
「驚いたよ。まさかにこんな特技があるなんてね」
「へ・・・?」
「凄く美味しい。今まで食べてきたなによりも。・・・・驚いたな、本当に美味しいや」
一口、また一口とぱくぱくと食べていくリーマスを見て嬉しそうに、そして安心したようには微笑んだ。
「良かったぁ・・・!リーマスにそう言ってもらえると本当に自信がつくよ」
「僕もとっても美味しいと思うよ!あ、もう1個もらっても良い?」
早くもぺろりと1個食べてしまったピーターは皿を見ながら尋ねた。
「うん、良いよ!せっかくだからたくさん食べてっ」
「わぁい!ありがとうっ」
2個めのアップルパイも凄い早さで食べていくピーターに笑いが零れる。
それをたしなめるようには紅茶を飲みながら一声かける。
「ピーター。落ち着いて食べなきゃだめよ。そんなにがっついては紳士的ではないわ」
「ご、ごめんっ」
「そうだよ、ピーター。全部一人占めなんてずるいだろう?」
リーマスとの2人から言われ、肩を小さくして紅茶をずずずと啜る。
そんなやりとりを見て思わず吹きだしてしまう。
「ふふっ、そんなに気に入ってもらえたのならいつでも作ってあげるよ?」
「ほ、ほほ、本当に!?」
「うんっ」
「ま、毎日でも!?」
「あははっ、食べたかったら作るよ」
にっこりと笑いながら嫌な顔ひとつしないにピーターは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「や、やったぁ!僕のお菓子のファンになっちゃったよ!」
「そんな大げさなぁ」
「ううんっ!だから凄く嬉しいっ」
気分が高ぶって興奮したのかピーターはいつもより饒舌な言葉を紡ぐ。
その言葉が気に食わなかったのかリーマスは少し拗ねたように紅茶を飲みながら呟いた。
「ピーターばかりずるいな。僕ものお菓子が好きになったのに」
「え?リーマスも食べる?」
「うん。出来ることなら僕の分も作って欲しいんだけど」
普段強く自分の意見を通そうとしないリーマスにはっきりとそう言われて、は少し意外そうに驚いた表情を浮かべた。
がおかわりの紅茶をくすくすと笑いながら注ぐ。
「いつものリーマスらしくないわね」
「君も意地悪だね」
「あら、あなたほどじゃないわよ?」
心外だと言わんばかりに大げさに肩を竦ませてみせるだが、それがすぐに本心ではない事に気付く。
「ま、のお菓子ファン1号は私だけどね?」
それは譲りたくないのか、はそれだけ言うと紅茶に没頭し始めた。
「そうだ!」
何か良い事が思いついたのか嬉しそうに笑うに一同は注目する。
最後の紅茶の一滴をごくりと飲み干すとは両手をぱんっと叩いた。
「これから毎日私達でお茶会をしたら良いんじゃないかな?」
「僕達で?」
ピーターの問いにこくりと頷く。
「毎日私がお菓子を用意してみんなでゆっくり過ごすの!さすがに試験期間とかは難しいかもしれないけど・・・・」
「うん、良いんじゃないかな。僕は賛成だよ」
「ぼ、僕も!みんなでいるのは好きだし・・・っ」
リーマスとピーターは即座に頷いた。
「ちゃんは?どうかな?」
反応をかえさないの方を向けば、ふうと小さく息を吐いたところだった。
「・・・良いんじゃないかしら。反対はしないわ。みんなでお茶するのも悪くはないしね」
「本当!?やったぁ!それじゃあ、決まりねっ」
「じゃあ、これから毎日のお菓子が食べれるんだね!」
目をきらきらと輝かせて尋ねてくるピーターには笑いながら答える。
「うん、良いよっ!もし食べたいものとか教えてくれたら作れるよう努力はするし」
「やった!僕、明日はスコーンが良いな!」
「おい、ピーター」
リーマスの強い声にびくりと肩を震わせるがの方を伺うようにちらりと見やる。
その事にくすくすと笑うとは首を縦に振った。
「分かったよ。リーマスも食べたいものがあったら遠慮なく言ってね」
「ありがとう、」
「いえいえ!あ、もちろん、ちゃんもだよ!」
当然といった顔では笑みを浮かべるとまた大人しく紅茶を飲み始めた。
「それじゃ、明日も楽しみにしてるね!お茶会メンバーの皆さんっ」
にこにこと笑うに一同は同意するようにゆっくりと頷いた。
午後のほっと一息をつける時間。
今日から中庭の中の端っこで、お菓子とお茶を愛する4人が
お茶会サークルなるものを結成したのであった。
2010.11.21
日常的な。