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長屋から少し離れた大きな木の下に座り込む。
熱い日差しから守ってくれる木陰はとても気持ち良い。
生ぬるく通り抜けていく風に目を瞑ると、見知った人物の気配がして薄らと目を開ける。
「あれ、三之助じゃん」
不思議そうな顔で自分を覗き込んでくる人に少しだけ口元を緩めて返事をする。
「先輩ーこんにちは」
「うん、こんにちは。・・・で、何やってるの?」
「えーっと・・・・委員会中だったんですが」
「・・・抜けてきたのね」
木に凭れ掛かっている次屋の横にそっと腰を下ろして座る先輩を横目で見る。
風に運ばれて、先輩の匂いがかすかにした。
「まぁ、三之助の場合は意図してここに来たって感じじゃないけど」
くすくすと笑う先輩の声が心地よい。
先輩の言葉に返す文が思い浮かばなくて黙って空を仰いだ。
「・・・・先輩は、どうしてここに?」
「えっと、ちょっと仙蔵に用があってね。丁度帰る時に三之助を見つけたってわけ」
そういえば先輩は作法委員だったなぁ。なんてぼんやりとしていると突然襲った黒いなにか。
真っ暗になった視界。だけどそれでも警戒をしないのは、この視界を遮る手が先輩のだって分かっているから。
「三之助ー」
「なんですか?」
「眠たそうね?」
ぱっと手を離されて漸く明るくなる景色に少しだけ目を細める。
先輩は相変わらずにこにこと柔らかい笑みを浮かべているだけ。
こういう場合は・・・・・
「はい、とっても眠たいです」
「素直でよろしいっ」
先輩の望む答えを言うのが一番。
そうしたら案の定、先輩は俺の大好きな優しい笑みを浮かべてくれる。
「じゃあ、はい」
「え・・・・」
ぽんぽん、と正座している先輩は自分の膝を叩きながら見返してくる。
訳も分からず(いやもしかしたらっていう期待はあるけれど)先輩を見つめていると、無理やり頭を引っ張られてそのまま膝の上へと乗せられた。
「先輩・・・っ」
慌てて起き上がろうと上体を起こそうとするが、それよりもはやく先輩の手がやんわりと俺を制す。
・・・・ずるい。そうされてしまうと俺は何もできず、ただされるがままになるしかない。
「いっつも体育委員会で頑張っている三之助にご褒美だよ」
下から見上げる先輩の笑顔もまた綺麗で、眩しかった。
「・・・っ。ありがとう、ございます・・・」
熱くなってきた頬を隠すために俺は己の腕で目を隠した。
木漏れ日の下で。
2009.11.4
友人Sへご褒美夢として次屋くん書きました。
彼の先輩への対応が謎です。