小さい頃からいつも一緒で誰よりも同じ時間を共有してきた。
それこそ、生まれてまもない頃からずっと一緒にいた気がする。
俺とお前は二人でひとつなんじゃないかって錯覚してしまうくらいに。
この関係がずっと変わらないのも、ずっと傍に居れると思っていたのも


俺のほうだけだったみたいだな


隣で歩いていたお前が
いつのまにか、俺を追い抜いてずっと先を歩いていくのを


ただ、俺は見ている事しか出来ない




「三郎?」


目の前に現れた幼馴染の顔にはっとする。
顔をあげて時計をみると、ずいぶん遅い時間になっていた。
あたりを見回しても教室に残っているのは自分としかいなかった。


「珍しいね、三郎がこんな時間まで残ってるなんてさ」
「あー・・・・たまにはな」


ちらりとを一瞥したあと、頬杖をついて外の景色を見る。
グラウンドで元気よく球を追いかける野球部員たちの姿が目に入った。


「は?」
「んー・・・私は雷蔵待ってるんだ」
「そっか」


頬を染めていうに目を逸らす。
ぐわんぐわんと頭が痛くなる。
そんな顔するなよ。


「最近、雷蔵とうまくいってんの?」
「えっ・・・う、うん、そうだね、この前一緒に水族館行ったよ」
「へえー・・・」


水族館なんて幼い頃にくさるほど一緒に行ったじゃん。


「その時ね、ソフトクリームおごってもらっちゃった」


あそこの売店のソフトクリームだって何十回だって一緒に食ったじゃん。


「そのあとは一緒にイルカショー見てね、雷蔵がお土産にってイルカのぬいぐるみ買ってくれたんだぁ」


イルカショーだって飽きるほど一緒にみたし、ぬいぐるみだって・・・・・・


「楽しそうじゃん?さすがデートって感じだな〜」


俺がクレーンゲームで取ってあげたじゃん。


知らずのうちに強く握り締めていた右手を隠すように左腕で隠す。
そんな俺の行為にも気づかず、は嬉しそうに語る。


「三郎も小さい頃イルカのぬいぐるみくれたでしょ?雷蔵がくれたイルカよりちょっと小さかったから、今は雷蔵のイルカの背中にのってるんだよ」
「・・・なんだよ、まだ持ってたのかよ」


俺はイルカでも雷蔵に負けるのか。


小さい頃の数少ない小遣いで頑張ってとったぬいぐるみ。
全部、の笑顔が見たくて、小さかった俺は自棄になってがんばったんだ。


でも、それも全部、全部


今の雷蔵には敵わない。


俺とでたどった記憶が全部雷蔵との新しい記憶で塗りつぶされていく。


「そんな昔のもん、さっさと捨てろよな」
「えー・・・やだよ。だって、三郎が私に初めてくれたものだもんっ」


それとも忘れちゃったの?なんて怒ったようにいうに胸が切なくなる。


忘れるわけがない。忘れられるわけが無いだろ・・・・!
そんな風に言うなら、言うくらいなら、なんで俺を・・・・


「だったら・・・・」
「、遅くなってごめんね!」


ガラリ、と音をたてて教室の扉を開けたのは額に汗を浮かべて肩で呼吸をしている雷蔵だった。
雷蔵の姿を目に留めると開きかけた口を閉じる。


「あれ、三郎もいたの?」
「・・・・・」
「雷蔵だー!もう、待ってたんだよーっ」


近くの机の上に置いてあったコートを着込むと、自分の荷物を慌てて片付ける。
そんなの様子をじっと横目で見ているとが振り返ってきた。


「三郎、さっき何か言いかけた?」
「・・・・・別に」
「ふうん?なら、いいんだけど」


鞄を手に持つと扉で待っている雷蔵の下へと駆け寄っていく。
走ってきたを抱きとめると、優しくの髪を撫でる雷蔵。
それを幸せそうに受け入れる。


ああ、頭が痛い。頭が痛い。


さっきの頭痛がより増したようだ。


「それじゃ、三郎。先に帰るよー。三郎も気をつけてね?」
「おう」
「それじゃあね」


二人に適当に手を振り返す。
と雷蔵は話しながら歩いていく。時折楽しそうなの声が聞こえてきた。


「・・・いってぇ」


ガンガンと痛む頭を抱え込むように机に突っ伏した。
もう二人の話し声は聞こえてこない。


「何言おうとしてんだよ・・・っ」


小さく握り締めた拳をガンッと強く机に叩きつけた。






































気づいた時は誰かのもので

















だったら、なんで俺を見てくれないんだよ


その柔らかい髪も
眩しい笑顔も
赤く熟れた唇も
線の細い小さな体も


全部、全部


俺のモノだと思っていたのに












2009.10.28



鉢屋ほど悲恋の似合う男はいない(私の中で)