「はっちくーんっ!」


自分を呼ぶ元気な声にそれまで地面と睨めっこしていた竹谷はそっと顔をあげると、こちらに向かって笑顔で走ってくるの姿を視界に留めた。
その姿に驚くが、それよりも今ここに来られてしまっては色々と困る!


「っ!すとっぷすとっぷ!」
「・・・え?」
「少しだけ待っててくれっ!・・・・・っと、いたぁあああっ!」


しゅばっと勢いよく手に持っていた箸を動かして地面にいたソイツを捕まえる。
箸の先端にくっついた小さな虫を丁寧に籠へといれると、ふぅと一息つく。
そこで漸く竹谷はの方に振り返ると、笑って頬を掻いた。


「良いよ、」
「! はちくんっ」


ガバリッ


竹谷の大きな体にしがみつくようにくっついてきた小さな体をぎゅっと抱きとめる。
久しぶりの柔らかな感触に竹谷も笑みがこぼれた。


「久しぶりだなー」
「はちくんに会えなくて凄く寂しかったよ」


大きな瞳を少し潤ませて見上げてくる。
そんな所も凄く可愛くて竹谷はきゅんとしてしまう。


あーもー。だめ。可愛すぎる。


ぎゅうぎゅうと抱きしめながらから香る甘い匂いに目を細める。
丁寧に手入れされたさらさらの髪は綺麗に結われている。
そんなの髪に触ろうと手をのばしたとき、逆に自分の髪の毛が触られる。


「もう、はちくんっ。また髪の毛酷いよっ」
「・・・ははは。本当、はタカ丸さんそっくりだよ・・・・」


ぐいぐいと引っ張られる髪に苦笑いを浮かべる。
タカ丸と同じ綺麗な黄金色の髪をしたは、正真正銘、斉藤タカ丸の実妹である。
そして竹谷と恋仲でもあり2つ年下の可愛らしい彼女だ。


「それで、はどうしてここに?」


抱きしめていた腕を離すと、はじっと見上げて微笑む。


「今度の長期休暇、私のところに来ませんか?」
「え・・・っ?」


突然のの申し出に目を見開く。
そんな竹谷にお構いなしににこにことは笑っているだけだ。


「是非はちくんと一緒に年を明けたいのです」
「それは・・・・」
「お父様にも許可を得ましたし、お兄様も喜んでくれます。・・・・私の料理、食べてもらえませんか?」


不安げに自分を見上げてくるを見ると断る事なんて出来ない。
むしろ、断るつもりはそもそも無かったのだが・・・・
一緒に年を明けるという事はつまり、つまり、つまり・・・・・!


「も、もちろん、行かせてもらうよ。の料理も食べたいし」
「! じゃあ・・・っ!」
「た、ただ・・・!」


ぱあっと明るくなる彼女の笑みに言っていいのか躊躇ってしまう。
だが、ここで言っておかないとその時どうなってしまうか分からないし
なによりその事を強く望んでいる自分がいるのだから、に分かってもらいたい。
喜んで自分に抱きついてこようとするを制すると、すぅっと息を吸って一気に言う。


「な、何もしないっていう自信はない・・・っ!」


赤くなってしまいそうな顔を必死に堪える。
竹谷の言わんとしてる事が理解したのか、じょじょに赤くなっていくの頬を見つめる。


「は、ちくん・・・」
「え、っと、その、が嫌ならしないってちゃんと誓うから・・・っ」
「っ」


慌てて必死に訴える竹谷にまたもぎゅっと力強く抱きついた。
赤くなった顔をみられたくないのか、そのまま胸に顔を埋めるとか細い声で呟く。


「・・・・はちくんなら、いい、よ・・・・っ」
「え・・・」


ガバッ


覚悟を決めたように顔をあげてしっかりと竹谷の目を見つめる。
その顔は真っ赤になっていて今にも泣きそうな目をしているけれど、それでも必死に言葉を紡ごうとは震える口を開く。


「私・・・私の全部は、は、はちくんのものだから・・・はちくんが望むなら、な、なんでも許すよ・・・っ」
「―――――っ」


感動して言葉に詰まる竹谷の視線に耐え切れなくなったのか、はまた胸に顔を押し付けた。
その愛しい彼女を力いっぱいに抱きしめるとに負けないくらい真っ赤になった顔をしたまま竹谷は笑う。


「・・・・すごい、嬉しい・・・っ」
「ん・・・苦しいっ・・・」
「」


ゆっくりとを解放すると、同じ目線になるように少し屈む。
お互いに真っ赤な顔をしているけれど、今はそんなのが気にならない。
どちらからともなくゆっくりと近づくと、そっと唇を重ねあった。


「はやく長期休暇ならないかな」
「ふふっ・・・はちくんってば・・・」


互いに体を寄せ合い、青い空を見上げた。

















肩を寄せ合い夜明けを待とう















2009.10.14

思っていたものと違う展開になってしまった・・・