いつから目を追うようになったかなんてもう覚えてない。
気づいたら目で追っていて、気づいたらいつも気にしていて、気づいたら心の中に大きく占めていた。
明るい太陽のように笑う笑顔が忘れられなくて、その笑顔を見るためなら何だってしてきたつもりだ。


「小平太くんっ」


そう言って、私を呼ぶ笑顔が眩しくて思わず目を細めてしまうのだ。














「おばちゃーんっ!A定食よろしくっ!大盛りで!!」


授業が終わり、空腹をかき消すために食堂へと駆け込む。
いつも通りの注文におばちゃんは笑顔で答えてくれて、どんっと美味しそうなご飯を置いてくれた。
空いている席へと向かおうとした時に、ふと、奥に見慣れた姿を見つけた。
向こうもこちらに気づいてくれたのか、目が合うとにこりと笑う。


「小平太くん、今日も元気だね」
「・・・っ」


食堂の奥に座ってご飯を食べていたのは、同じく六年生のくのたま、だった。
ご飯を落とさないように駆け足でのもとへと向かうと、隣に定食をガシャンッと置く。


「ここ、空いてるのか?」
「うん、どうぞ」


そう言って席を勧めてくれるに笑顔で頷いての隣に座る。
彼女も来たばかりなのか、まだ机に置かれているご飯はそれほど減っていなかった。


「うわぁ、今日もたくさん食べるんだね」
「ああっ!腹が減っては何も出来んからなっ!」
「ふふっ、小平太くんらしいね」


くすくすと笑いながらご飯を食べるがなんだかくすぐったい。
こうしてご飯を一緒に食べるのは珍しくはないが、毎回一緒に食べている訳でもないので、胸が弾むのが自分でも分かった。


「あ、小平太くん」
「ん?」
「ここ、ご飯粒ついてるよ」


すっと自然な流れで頬についてしまっていたご飯粒をとると、は笑った。
そしてあろうことか、それを自分の口に含むと何事も無かったかのように自分のご飯の手をすすめる。
あまりにも一瞬の事だったが、自分が何をされたのか自覚して、ぐんぐんと頬に熱が集まるのが分かった。


「・・・・・・っ」
「うん?どうしたの?」
「い、いやっ!なんでもないぞっ」


赤くなってしまった顔を隠すために大きいお椀で隠すようにガツガツと食べる。
「そんなに慌てて食べたらまたご飯粒ついちゃうよ」と笑いながらも咎めない。
美味しいご飯のはずなのに、なにも味を感じないのは緊張しているからだろうか。
小平太はゆっくりと丁寧にご飯を口に運ぶを見て、ドキドキと高鳴る胸を感じていた。


「小平太くんは、お昼は授業?」
「いや、今日はもう入っていないぞ。だから午後は自主練に裏々山に行く予定だ!」
「ふふっ、頑張ってるね」


ご飯も食べ終わり、ゆっくりとお話をする。
といっても食べ終わったのは小平太だけで、は最後のデザートのあんみつをゆっくりと頬張っている。
そんなをじっと見つめながら小平太は言葉を紡ぐ。


「はどうなんだ?」
「うん?私?私も授業ないからどうしようかなって」
「そ、そうだったのか・・・」


美味しそうに白玉を頬張るにドキドキしながら目を逸らす。
時々ちらりとのぞく赤い舌が気になって仕方がない。


「だから図書室に行って長次くんと本を読もうかなぁって」
「!!」


突然でてきた級友の名前に目を見開く。
そしてその言葉の内容にむっと眉間に皺が寄ってしまう。


「っ」
「ん?」
「わ、私と一緒に裏々山に行こうっ!」


と長次が一緒にいるのが嫌でつい言葉にしてしまった。
しかし女の子と一緒に外出するのが裏々山というのはどうなんだろう。
言ってしまった手前、退く事も出来ずからの返事を待つ。
はぱちぱちと瞬きしながら小平太を見つめる。


「でも・・・自主練は?」
「そ、それなら夜でも出来るしっ、少しくらい休んだって大丈夫だっ!!」
「そうなの?」


ぶんぶんと首を縦に思い切りふる。
と一緒にいたい一心で。
その想いは届いたのか、はにっこりと笑って頷いてくれた。


「それじゃあ、小平太くんと一緒に行こうかな」
「!! あ、あぁっ!よし、そうと決まればいけいけどんどーん!」
「いけいけどんどーん♪」


勢いよく席を立つと食べ終わった食器をおばちゃんへと渡しにいく。
もちろん、の分の食器も一緒に片付けてあげる。
2人は一緒に食堂を出ると裏々山へと続く道をすすむ。


「今の時期の裏々山はいろんな花が咲いていて綺麗だぞ」
「わぁっ、そうなんだっ。凄く楽しみねっ」


ふわりと微笑むに高鳴る胸を抑えられない。
ずっとこののどかな時間が続けば良いのに。
そう思いながら空を仰ぐ。
すると突然左手にぬくもりを感じてはっと下を見る。
照れたように笑ったと目が合った。


「この時間がずっと続けば良いのにね」


ぎゅっと自分の手を握り締めながら言う。
今自分が思っていた事をも思ってくれていたのだと思うと嬉しくて力強く握り返してしまった。


同じ時に同じ事を考えるなんて、運命じゃないのかな


そう思ってしまう私は








相当侵食されていると思う、心の奥の奥まで







しっかりと握り合う手がとても温かい







2009.10.14


久しぶりにとてもほのぼの・・・・